説明
このシリーズが誕生したのは、ある「Encontro de Rios -河の集合-」というタイトルの展示に参加するにあたり、水をテーマにした作品を作ったのがきっかけで誕生したのが、この「境界線 -Boundaries-」シリーズです。
水をテーマにした作品を作るにあたり、何故か最初に頭に浮かんだのが「水には境界が無い」という言葉でした。そもそも私たちが住む陸地も海も本当は境界線など無いのに、国境・町の境目・隣の家との境目等多くの境界線が設定されています。つまり、無限のものに境界を決めるのが人間であり、人間の歴史とは境界を定めるためのせめぎあいの繰り返しのように思われます。
この作品はシルクの刺繍糸で出来ていますが、糸というのは不思議なもので、くるくると巻けばコンパクトに収まるのに、伸ばして空間にピンと張っただけで空間を分断することが出来、更に糸を織ると布として1つの平面になり、布を縫うと立体にもなるという変幻自在な材料です。
私は2010年より作品の材料の一つとして、刺繍の産地として有名な中国の蘇州産のシルクの刺繍糸を使用しています。2018年にこの作品のきっかけとなった水をテーマにした展示の話が来たとき、私はまさに蘇州にアーティストインレジデンスとして滞在しており、蘇州は東洋のベニスと言われる水郷の街で、何か不思議な偶然を感じたのでした。
その後「境界線 -Boundaries-」シリーズは私にとって重要なシリーズとなり、実験的で新しい手法を取り入れた作品へと発展を続けています。